バッカミキの森へ続く道
バッカミキの森の橋
津波の跡地
森の入り口にて
バッカミキの森
パリの樹
INA-GRMのスタジオにて
Utopianaのスタジオにて
「桜の木の下で、時をみた」は、福島オープン・サウンド・プロジェクトの委嘱で作曲されたラジオのための電子音響作品です。2012年の夏から冬にかけて、東京から福島、フランス、スイスを巡る旅を通したフィールド録音を用いて作曲しました。
福島では童謡「かんちょろりん」が生まれたといわれる南相馬のバッカミキの森を訪ねました。ずっと昔、霧深い山の奥、清流沿いの小さな神社の境内で子供達が遊びながら歌っていたのかもしれない「かんちょろりん」。しかし、現在、バッカミキの山は放射線量が高く、立ち入りが制限されています。南相馬の中でも、バッカミキのように高放射線量の場所もあれば、比較的放射線量が低い場所もあり、子ども達を含む住民を取り巻く問題は複雑化しています。「桜の木の下で、時をみた」の曲中では、この「かんちょろりん」を引用しています。また、フランスでは、パリの樹々と対話をし、福島で現在起こっていることに関してどう感じているのか、彼らに聴いてみました。樹の中の様々な声を録音し、その音を使って作曲しています。
「桜の木の下で、時をみた」は、パリのフランス国立視聴覚研究所音楽研究グループ(INA-GRM)、及びジュネーブのUtopianaレジデンシー滞在を経て、各地のエンジニアの協力のもと作曲され、2013年1月に発表しました。以来、フェスティバルFUKUSHIMA!、福島オープンキッチン、フランス国営ラジオFrance Musique、スイス国営ラジオ・テレビRTSほか、世界各国のラジオ局やフェスティバルで放送されています。
「桜の木の下で、時をみた」は、沢山の方々のご協力を得て実現しました。特に、下記の方々に心から感謝申し上げます:松本澄声氏(福島南相馬市);陶峰山氏(福島県原町市);杉本榮一氏(福島県相馬市);ヒバリ秀澄会のみなさま;Anna Barseghian氏、及びDr. Stefan Kristensen,氏(スイス・ジュネーブUtopiana);Rainer Boesch氏(ジュネーブStudio Espace);Arturo Coralles教授、及びGianluca Ruggeri氏、Eloi Calame氏、Enrico Chizzolini氏、Valentin Peiry氏(ジュネーブ市民音楽院);Raphael Dubert氏(フランス国立視聴覚研究所音楽研究グループ);Carl Stone教授(中京大学); 亀川徹教授、黒岩若菜氏(東京藝術大学); そして永幡幸司准教授(福島大学)。
福島オープン・サウンド・プロジェクトとは―
2011年3月11日の東日本大震災以降続いている福島第一原子力発電所事故の状況をうけ、フェスティバルFUKUSHIMA!と連動して、フランスのラジオ局ネットワークの呼びかけによって始まりました。福島に関連する音のライブラリーをインターネット上で公開し、それらの音を用いた新作を世界各国の作曲家に委嘱することによって、福島と世界をつなぐ試みです。
<こちらのリンクで曲を聞いて頂けます>
桜の木の下で、時をみた
作詞/作曲:樅山智子
薄紅色の花びらが
ほのかな香りをささやきながら
空を舞い
新しくなった風がほっぺたを撫でて
太陽が細胞の奥までキスをしてくるなか
子供たちは泣き笑い
母親たちはおしゃべりし
男たちは老いた枝を剪定し
鳥たちは池から飛び立ち
猫たちは草の間をかくれんぼし
虫たちは花とともに唄い遊び
その全てが愛しく
そして
それらが美しく感じられるのは
時間、があるからなのだ、と
限りがあるから美しいのだ、と
死があるから美しいのだ、と
このために産まれて来て
このために死ぬのだ、と
思うと同時に
私たちは、今、この瞬間も
海に放射能を垂れ流し
土も水も空気も汚し
ミサイルを打ち合い
命を貶し辱め殺し合い
作業員が被爆しながら事故の対応をする傍ら
電気を浪費しながらネットでニュースを読み
もうずっと人々が住めない土地を生み出す傍ら
他の土地の人々に原発を売りつけ
子供たちのおしっこからも
母親たちのおっぱいからも
放射性物質が検出され
犬も牛も人間も
一年前の死体は
放射性物質となり放置され
それがどんなに恐ろしいことだとしても
それがどんなに悲しいことだとしても
ただ
木々は
時間に寄り添い
生きている